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【前編】福岡工業大学 高原教授に聞く『アルミニウム粉末からエネルギーを取り出す! 活性化アルミ微粒子を利用した水素発生装置とは?』

水素を使った燃料電池といえば、近年自動車業界で注目される技術ですが、その水素の取り出し方にも様々な方法があります。その中でも環境負荷が少ない方法として、「活性化アルミ微粒子」から水素を取り出すことに注目し研究をしている、福岡工業大学工学部電気工学科の高原健爾教授にお話を伺いました。

産業廃棄物から水素をつくる技術を目指して

Q:教授の研究分野である「活性化アルミ微粒子を用いた水素源の開発」とはどういったものですか?

高原:「活性化アルミ微粒子」とは、水素発生できるように表面を活性化処理したアルミニウム微粒子のことです。仮説ですが、製造過程でできる亀裂の先端部には「水素化アルミニウム(AlH3)」という物質が生成されると考えられています。これが常温下でも活性化アルミ微粒子が水と反応して、純粋な水素を発生させるきっかけになります。

活性化アルミ微粒子は、粉末状のアルミニウムを特殊な石臼を用いて低温の水中ですり潰します。次に、温度を急激に上昇させることで温度衝撃を与え、内部に応力腐食割れを起こさせます。その過程で、アルミ微粒子の表面から内部に大小さまざまな亀裂が生じることになります。

以前はアルミニウムの切削くずから活性化アルミ微粒子を生成していたのですが、一概にアルミニウムといってもメーカーによって合金の成分が微妙に異なるため、水素の反応特性に大きなばらつきがありました。そのままでは、統一的に反応制御特性を評価しにくいので、現在では市販されているアルミニウム粉末から活性化アルミ微粒子を生成しています。成果が着々と上がってきているので、最終的には切削くずをはじめ、自動車のホイールや飲料水の空き缶など、アルミ製の産業廃棄物からも水素を取り出せる装置として仕上げたいですね。

福岡工業大学 高原教授

現状の開発状況と課題について

Q:研究の成果がでてきているのことですが、現段階でのエネルギー効率はどれくらいですか?

高原:まず水素の発生量についてですが、理論的には活性化アルミ微粒子1gに水1mLを反応させることで、約1.3Lの水素が生成されることになります。しかしながら、実際には反応熱によって水が蒸発してしまうので、より多くの水が必要なんです。研究を重ねた結果、活性化アルミ微粒子1gで約1.1Lの水素を得られています。理論値より少なくなるのは当然ですが、けっこうな量の水素が取り出せるんですよね。

次に、大容量の水素を長時間継続して発生させるため、注水量をコントロールするシステムを設計しました。製作した制御システムは、30gの活性化アルミ微粒子に対し、毎分300mLの水素発生を約70分保つことが確認できています。この装置をもう少し大きくして燃料電池システムとして構成し、三輪自転車に搭載し、簡易的な「電動小型車両」を製作してみました。

その結果、毎分25mLの注水によって、最高18km/hで80分以上の走行に成功しました。電力のマネジメントシステムをもっと改良すれば、時間はさらに伸びるでしょう。一般的な電動アシスト自転車が平均15km/hで走行した場合、走行時間は60〜200分ということなので、単純なエネルギー効率なら同等の水準に達しているといえます。

Q:装置の実用化に際して、もっとも難しい点とは何ですか?

高原:装置の開発に関しては、やはり反応熱への対処が難しい点です。さきほども触れたように、活性化アルミ微粒子は水と反応して発熱を起こします。電動小型車両の装置ほどの大きさならそれほど問題ないのですが、大型な装置では発熱量もかなりのものになるので、制御が容易ではありません。注水を始めた直後は反応が緩やかなのですが、温度上昇にともなって急激に反応が進み、さらに温度が上昇していくのです。そのため、ある程度大きな装置でも狙った量の水素を長時間にわたって取り出すことが、現状の課題といえますね。

実用化という点に関しては、電動小型車両に搭載したような毎分150Wの電力を供給する装置程度なら、2019年内に実用化に達するかと思います。あとは、どれだけ精度や機能を煮詰めて大型化できるか、ということですが、上記の熱処理の解決にはもう少し時間がかかりそうです。

また、活性化アルミ微粒子の生成処理を行う際、クラックを入れる工程で意外とコストや時間がかかるので、その縮小も目指したいですね。すでに案ができているので、少しずつ取り組んでいきたいと思います。

非常時に活躍する水素燃料電池

Q:電動小型車両でテストされていましたが、今後どういった分野で活躍できそうですか?

高原:小型車両を使って動力テストをしてはいますが、実は日常で使用される燃料電池での使用は目指していません。日常生活というよりも、災害時の電力供給に活躍する燃料電池を最終目標としています。

近年、台風をはじめとする水害が非常に多いです。天候が荒れると、風力や太陽光などの発電もストップし、避難所などでの電力供給が困難になりますよね。一方この水素発生装置なら、理論上活性化アルミ微粒子と水さえあれば電力を生み出せるので、避難所のまわりに生活に使えない泥水などがある状況なら、重宝するシステムになるだろうと考えています。

また、今のところは非常用電力として構想を練っていますが、水素発生装置は熱源としても機能するかもしれません。エネルギー効率が悪くても装置の発熱を利用すれば、化石燃料も電力も使わず、なおかつ蓄電できるボイラーとして使えそうです。私の専門分野でないため、熱源としての研究には手を付けていませんが、ゆくゆくはこういった方面にも取り組んでいきたいですね。

Q:社会における工学系エンジニアの重要性について、教授の意見をお聞かせください。

高原:エンジニアが開発し続けることは、社会にとって非常に大切なことだと思います。一方で別の見方をすると、この先AIが普及していくにあたり、どの程度のエンジニアが必要なのかが変わってくるでしょう。従来よりも、エンジニアとしてのカテゴライズが細分化されるかもしれません。

科学というのは、素人が扱える製品を提供するために使われるものだと考えています。その実用化に必要なのが工学であり、そしてエンジニアリングであるといえます。本来、テレビの電源を入れる仕組みだけでも、相当な知識と技術が必要です。これを老若男女を問わず、リモコンひとつで誰でもスイッチを入れられるようにするのが、エンジニアとしての仕事の大切さであり、世の中への貢献だと思いますね。

さらにいうと、こういったアイディアというのは、なかなか一人ではでてきません。やはり人とコミュニケーションをとって、色々なことを吸収しながら研究を進めていくことが大事です。そのためには、様々なタイプのエンジニアがいたほうが望ましいでしょう。

実は私も、ずっと電気工学系統で研究をしてきたわけではありません。博士課程のときに医学部で医療工学の研究をしていました。こういった経緯から、純粋な電気工学の研究者とは観点が異なるのかもしれませんね。人体や生理現象に特有の一般性と個別性といったところから物事を捉える癖がついているので、現在の研究でもこういった目線が役に立っているような気はします。

――後編では、エンジニアとして働く心構え、そして就職について引き続き高原教授にお聞きしたいと思います。

(プロフィール)
福岡工業大学
工学部 電気工学科 教授
学科就職担当

高原 健爾

■福岡工業大学
http://www.fit.ac.jp/

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