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携帯電話の周波数帯域はもう限界? 解決の切り札である「静磁波共振器」の開発について。 ~福岡工業大 助教 家形諭先生に聞く~【前編】

第5世代移動通信システム、通称5Gが間も無くスマートフォン・携帯電話へ導入されると言われています。
そこで期待されているのが、4Gで使われている周波数帯よりもさらに高い周波帯域の利用です。
しかしながら現在主流となっている弾性波を利用したフィルタでは高周波への対応が難しく、様々な解決策が模索されています。
その一助となる可能性を秘めた「静磁波共振器」の開発について、福岡工業大学の家形先生にお話を伺いました。

高周波帯域の必要性

Q.なぜ今高周波帯域の利用が求められているのでしょうか?

2016年時点でネットワークに接続されるデバイス数は171億台を越えています。
スマートフォンの普及が進み、1人あたりのデバイスの所有率が上がっていて、2021年にはその数は240億台になると予想されているんです。

台数だけでなく、情報量自体も日々大きくなっていますよね。スマートフォンで動画コンテンツの閲覧が当たり前の時代になっているほどですから。
より快適なネットワーク環境のためには情報密度を高くできる高い周波数の利用が求められます。

帯域の割り当ては世界で決められていて、すでに日本が使える高周波帯域の割り当ても決定しています。
現在およそ610MHzの帯域幅が使用されていますが、このままでは資源(帯域)不足となることは免れないため、2020年に向けてさらに2000MHzの帯域が用意されました。

磁石を使ったデバイス開発を目指して


Q.家形先生が研究されている静磁波共振器とはどういったものなのでしょうか。

簡単に言えば、磁石を使ったデバイスの開発を行っています。
現在スマートフォンには2.5GHzまでの周波数帯域が使われていますが、目標は3.5GHz帯域です。実はこの3.5GHz帯域は4Gで使われるはずでした。
しかし対応できるフィルタがないため使われていません。

現在主流となっているSAWフィルタは弾性波を利用することで優れた周波数特性を実現させていますが、熱膨張に弱い特徴があります。
周波数が高い波の場合ほんの少しの変化で波長が大きく変わってしまうため、SAWフィルタでは3.5GHz帯域に対応できないのです。


そこで40年ほど前に目をつけられたのが磁気の波、静磁波でした。
磁波は熱に強いので熱膨張が起きて媒体が伸びても波長に影響しない上、高周波数を得意としています。ではなぜ今実用化されていないのかと言うと、磁石の波を反射させる方法が確立されなかったからです。

フィルタの実用化には、閉じたエリアに波を作り共振させることが重要なポイントになっています。
弾性波はいわゆる音の波なので材料を置くだけで反射するのですが、磁石の場合40年前には数十ミクロンの溝を掘ることで反射させるしかありませんでした。
反射器には高精度が求められるので、溝を掘る方法では精度が得られず実用化されなかったのです。

現在私が研究している静磁波共振器とは、溝を掘らずに磁波を反射させるものです。
磁石には様々な種類があり、研究では反強磁性材料を使用しています。反強磁性材料はつけるだけで磁石の特性を変えることができます。
特性が変わったところには静磁波は入れなくなるので、結果的に反射させることができるわけです。

静磁波フィルタの実用化に向けて


Q.実用化に向けて研究は今どういった段階ですか?

私たちの研究は実用化できそうだと伝えるところまでが仕事なので、現在は共振器の試作を繰り返しながら、静磁波が実際に反射するかどうかの検証を行っています。
目に見えるものではないので確認しづらい点もあって、それをわかりやすくするための工夫も必要です。
反射したと示すことができなければ、実用化できませんからね。

静磁波は、弾性波が超えられなかった熱に対する要求を超えることはできます。
でもそれだけでは実用化とはなりません。
それ以外の部分で磁石が応えられるかどうかを見極めていく必要があります。
周波数が高くなればなるほど求められる精度も高くなるので、ほんの少しの誤差も許されないんです。
それはかなり高い壁であると認識しています。

総務省は帯域の整理を行っていて、ひょっとすると制限を緩和することで3.5GHz帯域の利用が始まるかもしれません。
弾性波フィルタに起こる誤差を許容できるよう、帯域を広く分ける可能性は考えられます。
じゃあ静磁波フィルタは必要ないかというとそうではなくて、より精度の高い静磁波フィルタが導入されれば、細かく帯域を分けることができます。
そうなれば単純に同じ帯域を使う人の数が減らせるので、それだけでも高速化にかなり役立つのではないかと考えられているんです。


静磁波共振器が持つ可能性とは


Q.静磁波共振器が実用化されることで変わることは他にもありますか?

静磁波を自在に反射させられるようになれば、別のデバイスにも活かせるはずです。
例えば半導体を使っている電子デバイスは、エネルギーの消費量が問題視されています。
半導体エレクトロニクスに静磁波を応用できれば、それを格段に減らすことが出来るでしょう。

電気を不要とする静磁波は、非常に注目を集めている分野です。
磁性の起源がスピンであると認識されたのは約100年前だと言われていて、随分いろんなことがわかってきました。
ただ静磁波の研究自体は60年程前からの若い分野なので、まだまだこれからな部分も大いにあるかと。


家形先生の研究に対するモットー



Q.教授が研究を行う上で大切にされているモットーはありますか?

学生たちにも言っていますが「できないことはない」がモットーですね。
カッコつけているように聞こえるかもしれませんが…。
人類がこれまで築いてきた歴史を見てみると、いくつもの問題が発生してその度にそれを乗り越えてきています。
産業革命の後に何も変わっていなければ、人類は滅亡していてもおかしくありません。
でも今こうしてこれだけの人口で世界は保たれている。もちろん人口密度や食糧の面でまだ課題はありますけどね。
それもきっと何かしらの形で解決していくでしょう。

研究も同じです。どんな研究も最初は「そんなもの出来るはずがない」と叩かれるもので、僕も最初は門前払いを受けましたよ。
日本は、特に奇抜な研究が受け入れられにくい国ではあります。
それでも解決策は必ず出てくると思って、今も研究を続けています。


家形 諭(やかた さとし) 助教
(プロフィール)
2010年九州大学 稲盛フロンティア研究センターの特任助教に就任。
2013年より福岡工業大学 工学部の助教に就任。
福岡工業大学 工学部 電子情報工学科 助教。
研究室紹介ページhttps://www.fit.ac.jp/sp/site/susume/lab/lab10
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