世界で増え続ける超高層ビル。その背景は?
高さ200メートル(約40階)を超える超高層ビルの建設が、世界中で加速しているのをご存じでしょうか? 国際NPOの「高層ビル・都市居住協議会(CTBUH)」の調査によると、2018年の1年間で、世界で合計143棟もの超高層ビルが完成し、過去10年にわたり建築数は右肩上がりで増え続けているそうです。
では、ビルの高層化が進む背景はなんでしょうか。 高層化の大きなメリットは都市圏の高層化による通勤時間の短縮です。オフィスを都市部に集中させ、郊外に庭付きの一戸建てを構えるのがスタンダードとなったアメリカでは、1日の平均通勤時間は約70分。ということは、年間の37日間は通勤だけのために費やしていることになります。この通勤が、時間の拘束だけでなく、もちろん車の排気ガス公害や長時間運転による事故、交通渋滞によるストレスなど、人の健康や安全にも大きな影響を与えているのが現状です。都市圏のビルに住まいがあれば、このような時間の無駄と公害を回避することができるメリットがあります。
他には環境管理システムの自動化によって、ビル全体のエネルギー消費削減を実現することができます。台湾などの高層ビルが立ち並ぶ商業都市地区では、ショッピングモールやオフィスタワーなどの全体の配水システムや排気システムを総合的にコントロールしています。ターミナルごとのコントローラーを導入し、タイマーによる排気ファンで年間CO2排出量を3000トン削減することができます。これは年間のエネルギー消費では10%の削減となり、消費電力全体では年間70万ドルの節約が実現できるようです。
また、雇用の促進や観光資源としての経済効果も大きく、ビルの高層化は人間の生活環境を効率的で充実させるために大きな役目を担っていると言えるでしょう。
圧倒的な中国経済! 世界でも超高層化が進む
それでは、ビルの高層化が急速に進む中国の事情を見てみることにしましょう。 「高層ビル・都市居住協議会(CTBUH)」の調査では、2018年の1年間に世界で建てられた143棟のうち、なんと約6割に当たる88棟が中国に集中しているとのことです。ちなみに2位はアメリカの13棟なので、その差は圧倒的。国別のシェアにおいても11年連続で首位を誇り、中国は空に向かって伸びる大国へ進化しています。
ではどうして中国で高層ビルラッシュが起こっているでしょうか?
一番大きな理由は、中国の面子を重要視する文化です。官民をあげて推奨されてきた摩天楼の建設は、経済成長のアピールなのです。中国は色々な分野のギネスに挑戦する文化が根付いており、摩天楼は国の威厳を象徴するシンボルとしてなくてはならないエレメントなのでしょう。また地方での指導者の実績づくりのために、中国各地で超高層ビル建設競合が繰り広げられています。特に広東省深圳は、ハードウェア製造が中心で、電子素材を作る工場や中小企業のオフィスを収容するための建設が盛んです。その経済の好調ぶりから、深圳では、2018年度だけで200メートルを超える高層ビルが14棟も建設され、中国全土の高層化をリードしています。
もう一つ、中国の建築が高層ビルに集中している原因として、土地の高騰と低賃金との微妙な関係を無視することはできません。不動産価格が最も高い地域として7年連続1位となった香港。土地不足から上に積み上げる高層化は自然の摂理と言えるのでしょう。同時に、建設資材が国内でまかなえ、労働賃金が低いことも建設ラッシュを過剰にしている理由のひとつのようです。 また新しい高層ビルが地域全体の不動産価格を上昇させ、地方政府の財政増にも一役かっているため、高層化はまだまだ加熱しそうです。
ところで、世界で一番高いビルの高さはどのくらいだと思いますか? 2018年現在の1位はアラブ首長国連邦のドバイにあるブルジュ・ハリファというビルで、その高さなんと828メートル。206階建てとのことです。2位は中国の上海中心大厦で127階632メートル。3位がサウジアラビアのメッカにあるアブラージュ・アル・ベイト・タワーズのホテル棟で、601メートルとのことです(ちなみに、ビルに限らなければ、日本のスカイツリーが634メートルで世界で二番目に高い建物になります)。 そして、2019年に完成予定というサウジアラビアのジッダ・タワー(旧称:キングダムタワー)が、地球上の建造物で初の1000メートル超えとなる1008メートルになるとのこと。ちなみに1000メートルを超える建物をハイパービルティングと呼び、このビルが実現第一号となる予定です。また建設が計画されている建物の中では、ドバイ・シティ・タワーという2400メートルのビルも存在します。 もちろん中国も負けてはおらず、2019年も圧倒的な数の超高層ビルが完成予定とのことで、世界のビル高層化はとどまるところを知らないようです。
高い耐震性が要求される日本の事情
日本の高層ビル事情はと言うと、2014年に地上300メートルという日本一の高さを誇るあべのハルカスがお目見えし注目を集めました。ただ、日本の高層ビルは、耐震対策規制のため世界の超高層ビル事情とは少し異なります。
日本では1960年まで「市街地建築物法施行令」により建築物の高さは最高31メートルに制限されていました。「衛星/遮光、通風の確保」「保安/災害防止」「交通/交通容量のコントロール」の3つを配慮した規制ですが、特に当時31メートルまでしか届かないはしご消防車に合わせて災害時に避難やレスキューができるようにしていたことが大きな理由でした。
しかし、1961年に建築基準法が改正され、既成市街地の整備・改善を図ることを目的とした「特定街区制度」の成立によって、既存の建築基準法の高さ制限を適用せず、都市計画で容積率・高さなどを定める制度に変更。この新建築法によって、1968年日本最初に建設された39階建て147メートルの霞が関ビル登場は非常にセンセーショナルだったようです。
今後は、2022年には東京都港区虎ノ門にあべのハルカスを抜く330メートルのビルが建設予定で、2027年には高さ390メートルの高層ビルが東京駅前にお目見えするそうです。
そして超高層ビルに必須なのが高度なエレベーター技術です。 地震が多い日本だからこそできる、災害にも配慮されたエレベーターは、世界でも高い評価を受けています。衝撃に強い構造や摩耗を防ぐワイヤー・最新の制御システムなど日本ならではの匠の技が実現されているのが特徴です。そして同時にエレベーターをメンテナンスするスタッフにも高い技術力と熟練性が求められます。
実際に中国で建設される高層ビルでも、安全性の高い日本製のエレベーターは多く採用されており、その技術によって中国の高層ビルラッシュが支えられているといっても過言ではありません。
高層ビルを作るにしても、その建物を運用するために必要な技術が伴っていなければ、世界中でここまでの建設ラッシュを迎えることはなかったでしょう。高層ビルの移動手段として必要不可欠なエレベーター、そしてそれを支える日本のエレベーター技術は世界の高層ビル建設ラッシュを促進する大きなカギになっているといえます。 今後も世界のビル高層化の一端を担っていく日本のエレベーターの発展に注目しましょう。