中編では家形先生が磁石の研究をするようになった経緯や、エレベーターへ関心を抱かれていることについてもお聞きします。
磁石に感じる可能性と未来
Q.先生はなぜ磁石の研究をしようと思ったのですか?
磁石はくっつくし、反発もする非常に不思議な物体で、元々興味を持っていました。
そこで、磁石に関する研究の最先端だと言われている東北大学に進学してスピントロニクスを研究している研究室に入りました。
(スピントロニクスとは…磁気と電荷、2つの性質を活用する電子技術のこと。)
当時は磁石を使ったメモリについて、国家プロジェクトレベルの大きな規模で研究が行われていました。
私も研究室の一員として関わらせてもらい、メモリの分野は相当なレベルまで進んでいきました。
やがて研究領域を越え始めたので、次に何を研究しようかというところで、今研究している静磁波に目をつけたわけです。
Q.現在、静磁波フィルタ以外にも並行して研究されていることがありますか?
まだ研究というレベルまでいっていなくてアイディアの段階ですが、色が変わる材料に関心を寄せています。
次世代不揮発性ディスプレイの開発です。
物の色は、簡単に言えば光を吸収した際に不要な色だけが反射されて、それによって何色に見えるかが決まっているのです。
つまり吸収される色を変えることができれば、物の色を変えることができます。
例えばステンドグラスは、ガラスの中に小さな金属の粒子が混ぜられていて特定の周波数だけが吸収されるプラズモン共鳴が起こっています。
ステンドグラスは作ってしまえば色が固定され変わることはありませんが、このプラズモン共鳴の条件を変えてやれば色が変わるはずなのです。
プラズモンというのは電子の集団のことで、電子自体が磁石の大元なのです。
つまり磁性材料を使うことによって、外部からの磁気的な力で共鳴条件を変えることができるはずだと考えています。
ただ磁石の金属の粒子をどうやって作るのか、という問題があります。
通常私たちが目にする大きさの金属であればプラズモン共鳴は起こらず、金属の中にある電子によって電磁波が中和されるため、全ての色が吸収されません。
金属が銀色に見えるのはそのためです。しかし微粒子にすることで共振を起こして色が変わります。
中に入っている金属はそのままにしていれば通常酸化してしまいますが、ステンドグラス職人はそこへ還元剤を混ぜて粒子のサイズを一定で保たせているのです。
彼らは粒子なんて意識はしていないでしょうが、ナノスケールサイズの粒子をガラスの中に存在させるのはある意味神技ですね。
磁石が中に入っているステンドグラスというものは、おそらく存在しません。それができるようになれば、色が変わるガラスを作ることはできるはずです。
今のディスプレイは後ろから光を出して画面を表示していて、常に電力を消費している状態です。
磁性材料を使った不揮発性ディスプレイが作られれば、光を出さずに色を変えられるようになるので、電力の消費が抑えられと考えています。
色が変わるポスターだって、作れるようになる可能性は十分あります。
磁石とエレベーター
Q.先生はエレベーターについて何か関心をお持ちですか?
研究的な視点とはまた違いますが、単純に好奇心の部分で関心があるのは構造部分です。
物を見て、その構造がどうなっているのかを考えるのがとても好きなんです。
だからエレベーターがどのように設計されるのかは興味があります。
エレベーターは安全性が不可欠とされる乗り物ですが、ユーザーがどのような行動を取るかはわからないじゃないですか。
重力も常に存在しているわけですし、安全性をいかに向上させるかを考えると、仮に私がエレベーターを作ってみようとなっても非常に難しいなと。
きっと対荷重の問題だけでなく様々な異常事態に備えた構造になっているのだろうと思います。
それも日夜新しく、より安全に進化していっているはずなので、ソフト面やプログラムがどう組まれているのかも気になる部分です。
そのうちAIによって、時間帯や場所に合わせた効率的な動きをするのではないでしょうか。
消費される電力量を考えても、人の生産性を考えても、エレベーターにおけるAIの発展は意外と大きな経済効果になるでしょうね。
家形 諭(やかた さとし) 助教 (プロフィール) 2010年九州大学 稲盛フロンティア研究センターの特任助教に就任。 2013年より福岡工業大学 工学部の助教に就任。 福岡工業大学 工学部 電子情報工学科 助教。 研究室紹介ページhttps://www.fit.ac.jp/sp/site/susume/lab/lab10