エス・イー・シーエレベーター株式会社

Next Movement

東京電機大学「小平研究室」 ゼロから学生が手作りするレーシングカーが世界のフォーミュラSAEに挑戦し続ける!【Part2(全4回)】

東京電機大学・小平講師に聞く・フォーミュラSAEで得られるものとは!?


「もの作り」の重要性を説く小平和仙講師の指導のもと、東京電機大学のチーム「小平研究室」は、2002年から自動車開発の国際大会「フォーミュラSAE」に参戦し続けています。
大会に向けた開発を通して、学生たちは何を感じ、何を得ているのでしょうか。
前回に続いて小平講師にうかがいました。

「技術は世界共通」を学生時代に体験


Q.前回のお話では、負担は大きいけれども国際大会に出続けている、とのことでした。なぜ、国際大会にこだわるのでしょうか。
 
小平講師:
日本国内にも同種の大会があり、そこでも刺激が得られることは分かっています。
しかし、年間で2台も3台も作るのは無理なので、開発スケジュールをどこかに合わせなければなりません。

そこで検討した結果、私たちは、国際大会を選ぶことにしました。
遠征費用などの負担は大きいですが、それ以上に得られるものが大きいと思っているからです。

海外のチームは、日本人では思いもつかないような、とんでもない発想で車を作ってきます。
その1台1台に触れることは発想を広げるうえで、非常に大きいです。
また、自動車開発という共通テーマを通して、海外の学生たちと生の交流ができる。
若者たちにとって、実際に外国人と交流することは貴重な体験です。
例えば、英語なども必死で学ぶ気になるでしょう。

結局、「もの作り」の日本といったって、勝負すべきところは世界です。
技術は世界共通のもの。
だからこそ、早いうちに世界に出て、世界と交流したほうが良いのだと思います。

知識の前に人格形成が大事


Q.しかし、学生を指導して、国際大会まで連れて行くのは大変なことではないですか? 小平講師にいちばん負担がかかっているように思えます。
 
小平講師:
技術的なことについては、実は私はほとんど指導していないのです。
学生自身が考え、失敗することが大事だと思っています。
聞いてくれば答えますが、聞いてこなければ、こちらから手を差し伸べるようなことはしません。

苦労しているという点では、技術面ではなく、人間教育、こころの部分についてです。
要するに、もの作りをする「人を育てる」ということ。人格形成です。
東京電機大学のモットーに、初代学長で、ファクスの生みの親として知られる丹羽保次郎博士が唱えた「技術は人なり」という言葉があるのですが、これは本当にそうだと思います。
最初にイメージがなければ、ものは作れません。
つまり、開発者の「器」以上のものができることは、絶対にないのです。

だからこそ、もの作りの「技術」を教える前に、「人間」を作らなければなりません。
人格が形成されて、初めて良質のものができるようになるのです。

それを私たちのチームに当てはめると、やはり私たちは勝負の場に出るわけですから、「勝てる」と思うものを作らなければなりません。
勝てると思わないところに、いいものは作れないんです。

お金があっても、知識や技術があっても、「勝つ」という気力や気迫がなければ、いいものは作れない。
エジソンだって、ライト兄弟だって、学業は決して優等生ではなかったでしょう。
エジソンなどはむしろ劣等生ですよ。
でも、ものを発明したいという強い気持ちがあった。
ライト兄弟など、あの時代に「空を飛びたい」などといったら変人扱いでしょう。
「でも、飛べる」と信じたからこそ、実際に飛行機が完成したのです。
大切なのは、強固な意志なのです。

今年(2019年)の夏は、高校野球のエースの球数制限など起用法が話題になりましたが、精神論、根性論で語るのではなく、勝つことをゴールに逆算することが大切だと思います。
少なくとも「もの作り」では、目的を定め、強い意思を持ち、そこを目指して逆算して、ひとつずつやっていくことが基本です。

勝つために発想を変える


Q.具体的に、東京電機大学のチームが実践したことなどはありますか?
 
小平講師:
トップと同じ発想をしていては、追いつくことはできても、追い抜くことはできません。
トップチームは、さらに先にいってしまいますから。

そういう考えで、私たちは発想を変えて勝負しています。
具体的には、いろんなものを足し算して性能を上げていくというやり方はせず、馬力は捨てて、車体を軽くする方針を取りました。
これは、レースのコースが狭くてカーブが多いため、馬力はそれほどいらない、ということからの発想です。

トップチームの車体は220kgぐらいありますが、私たちの車体は150kgほどです。
タイヤが4つあって450ccなのに、250㏄のバイクと同じくらい。
「小さくて軽い」が現在のコンセプトです。

好きなものにとことんのめり込む


Q.そういう車体を作るのは、どのくらい大変なことなのでしょうか? 工程などがなかなかイメージできないのですが……。
 
小平講師:
1年で1台を作っていくわけですが、最初はコンセプトの決定、共有が大事になります。
どうすれば勝てる車を作れるか話し合い、イメージを固めていく。
次に設計です。担当別に設計し、それを一つに組み合わせていく。
設計ができれば、あとは組み立てるだけです。
もちろん、そんな簡単なものではないですが。
あとは、仕上がった車をテスト走行させ、微調整して本番に臨みます。

言葉にすれば簡単なようですが、この工程はほぼ1年がかり。
それも、週に数時間というレベルではなく、毎日夜中まで向き合っての作業です。

前回申し上げたように、このチームはいわば「部活」です。
学生たちはそれぞれ授業を受けたあとにこの研究室にやって来ます。

休みの日も研究室にこもりっぱなし。
盆も正月もなく研究室に泊まって、自宅に帰らない学生もいます。
食事は食堂とコンビニの弁当だけで、寝袋を持参して。
そんな生活の中でも、海外遠征費を稼ぐために、授業と開発の合間を縫って、バイトをしている学生もいます。
そうやって、好きなものをとことん納得いくまでやっているのです。

Q.ストイックな学生生活ですね。恋愛をする暇もない……。
 
小平講師:
恋愛は社会人になってからでいいんですよ(笑)。
実際、そこまで一生懸命取り組んだ学生たちは、一流企業にどんどん就職しています。
社会人になってからのほうが生活にも時間にも余裕ができるから、20代前半のうちからのびのびと趣味を楽しむ日々を過ごしています。

学生たちはそういう先輩たちを見ているので、「自分も」と頑張れる面もあるのでしょう。
長く続けている甲斐があって、そういう良き伝統が生まれているのを感じています。

Part.3へ続く

 
小平和仙 工学博士
(プロフィール)
自動車メーカー勤務を経て、2001年に東京電機大学講師就任。
「小平研究室」を立ち上げ、フォーミュラSAEを指導。
現在は、模擬惑星探査機星開発、エコランカー開発なども指導する。
専門は自動車工学分野。
東京電機大学理工学部理工学科 機械工学系および電子・機械工学系講師。
研究室ホームページ http://kodairalab.rt.dendai.ac.jp/


PART1.『東京電機大学・小平講師に聞く・フォーミュラSAEとの出会いと今』
PART2.『東京電機大学・小平講師に聞く・フォーミュラSAEで得られるものとは!?』
PART3.『チームリーダー・新垣繁輝さんに聞く・「こんなに充実した学生生活になるとは!」』
PART4.『東京電機大学・小平講師に聞く・これからの学生へ伝えたいメッセージとは!?』